日本語のアウトプットを増やすには?
- Haruka Watanabe

- 2 時間前
- 読了時間: 6分

前回のコラムでは、子どもが日本語を話すようになってほしいからといって、
「これ、日本語で何て言う?」
「ほら、○○って言って」
と、毎回「言わせる」必要はない、というお話をしました。
では、どうしたら子どもが自然に日本語を使う機会を増やせるのでしょうか。
ここで大切なのは、
「日本語を話させる」ことではなく、「日本語を使いたくなる場面」をつくることです。
子どもにとって、日本語を話すこと自体が目的になるわけではありません。
「伝えたい」
「分かってほしい」
「一緒に遊びたい」
「面白いことを共有したい」
そんな気持ちがあって、その手段として言葉を使います。
だからこそ、
日本語で言えた!という達成感よりも、
「日本語で伝わった!」
「日本語でやりとりするのって楽しい!」という経験を増やしていくこと。
それが、日本語のアウトプットにつながっていきます。
では、家庭でどんな工夫ができるのでしょうか。
① 日本語を使う「余地」を少し残す
例えば子どもが英語で
「I want to drink some water.」
と言ってきたら、
「お水が飲みたいんだね」
と、日本語でお手本を示します。
ここですぐに、「言ってみて」と促すのではなく、
数秒だけ間を置いてみましょう。
子どもが「お水……」などと自分から言い始めたら、
「そうそう、お水が飲みたいんだね」
と受け止めます。
何も言わなければ、そのまま水を渡して大丈夫です。
大切なのは、「言えたら水をあげる」という条件をつくることではありません。
子ども自身が日本語を口にするための時間を、ほんの少し残してあげること。
親が先回りしてすべてを話してしまうのではなく、「言ってみようかな」と思える余白をつくってみましょう。
② 「日本語を使うと、会話がもっと楽しくなる」経験を増やす
日本語を話すことそのものを目的にするのではなく、
日本語を使った先に楽しいやりとりがあることを経験してもらいましょう。
例えば、
子:「I want to drink some water.」
親:「お水が飲みたいんだね」
子:「……」
親:「このコップ、何色かな?」
子:「Red!」
親:「赤だね。○○ちゃんの好きな色だよね。ママはこの青いコップが好きだな」
というように、日本語で会話を広げていきます。
子どもが日本語を一言話したら、そこで終わりではありません。
その一言をきっかけに、さらに会話が続いていく。
「日本語を使うと、お母さんともっと話せる」
「日本語で話すと、一緒に笑ったり、考えたりできる」
そんな経験が積み重なることが大切です。
反対に、「日本語を言ってからでないと欲しいものがもらえない」という交換条件にしてしまうと、日本語が「要求を通すためのテスト」になってしまうこともあるので気をつけてください。
③ 「全部言って」ではなく、一部分だけ言ってみる
子どもが、「これがほしい」とまで言うのが難しそうなら、
親:「これが……?」
子:「ほしい」
親:「そう、これがほしいんだね!」
というように、文章の一部分を子どもが完成させる方法もあります。
いきなり文章全部を言うのは難しくても、最後の一言なら言えることがあります。
ただし、これも毎回やる必要はありません。
子どもが楽しそうに参加しているときに、遊びの一部として取り入れてみましょう。
④ 選択肢を出して、発話のハードルを下げる
ゼロから文章を考えて話すのは、意外と難しいものです。
例えばおやつを選ぶ場面なら、2つの選択肢を先に提示しましょう。
親:「りんごがいい?バナナがいい?」
子:「バナナ!」
親:「バナナがいいんだね」
慣れてきたら、単語だけでやりとりするのではなく「バナナが食べたい」「りんごが欲しい」
と少しずつ表現を広げていくこともできます。
【何て言えばいい?】とゼロから考えるより、【どちらがいいか?】と選ぶほうが、
発話の負担は小さくなります。
まずは一言からでいいので、
子どもが言えることを少しずつ増やしていきましょう。
⑤ 「日本語を言わせる」より、「日本語が必要になる遊び」をつくる
幼児の場合は、こちらのほうが自然に日本語のアウトプットを増やせることもあります。
例えば、お店屋さんごっこ。
親:「いらっしゃいませ。りんごとバナナとみかんがありますよ。何がほしいですか?」
子:「りんご!」
親:「りんごですね。はい、どうぞ」
慣れてきたら、
「りんご、ください」
「りんごをください」
と、少しずつ表現を増やしていきます。
ここでも大切なのは、最初から正しい文章を言わせることではありません。
「遊びたい」という気持ちが先にあって、そのために日本語を使う。
つまり、
「教える → 言わせる」ではなく、「遊ぶ → 必要になって言う」。
この順番を意識してみましょう。
⑥ 歌やリズムを使って、日本語を「楽しいもの」にする
幼児は、言葉そのものよりも、リズムや音の面白さから言葉を覚え、発話に繋がるともあります。
例えば子どもが、
「I want to drink some water !」
と言ったら、
「♪お水が~飲みたいのね〜♪」
と歌うように返してみたり、
「お・み・ず!飲みたいんだね!」
と、少しリズミカルに言ってみたりしてみましょう。
「正しく言ってみよう」と教えるより、親自身が楽しそうに日本語を使っている姿を見せるほうが、子どもが真似してみたくなることもあります。
日本語を「勉強するもの」ではなく、「一緒に楽しむもの」にする。
幼児期の日本語育児では大切な工夫です。
ここまでいくつかの方法を紹介しましたが、どの方法にも共通していることがあります。
それは、子どもが日本語を口にするまでの時間を待つことです。
「水がほしいんだね」
と言ったあと、すぐに、
「ほら、みずって言ってみて」
と続けてしまうと、子どもには考える時間がありません。
親が日本語のモデルを示したら、
モデルを示す → 少し待つ → 子どもの反応を見る
くらいの感覚で十分です。
何も言わなければ、それで終わり。
言葉が出てこなくても、失敗ではありません。
今日言わなかった言葉を、明日言うかもしれない。
今日「水」としか言わなかった子が、数週間後には「お水ちょうだい」と言うかもしれない。
日本語のアウトプットは、ある日突然ゼロから生まれるものではなく、
これまで聞いてきた言葉や、親とのやりとりの積み重ねの上に少しずつ育っていきます。
だから、子どもが日本語で返してくれないときも、
「もっと言わせなきゃ」
と焦らないでください。
まずは、子どもが「日本語で伝えてみようかな」と思える楽しい場面を、生活の中に少しずつ増やしていく。
それだけでも十分な一歩です。
日本語を話させるのではなく、日本語を話したくなる。
そんな環境を、親子で少しずつつくっていきましょう。


コメント